Se connecter玉座の間の入り口に立つと、衛兵たちが扉を開けてくれた。そのままカシューが座る玉座まで移動する。
「よく来てくれたね。今日はちょっと厄介ごとがあってね」
砕けた口調でカシューが切り出した。王としてのロールプレイはどうしたんだ?
「ほう、厄介ごととは?」
「ここから西の高原に悪魔が出現したという報告があってね、ちょっと行って討伐して欲しいんだ。それと……」
「私も同行する。いかにカーズ様の妹とはいえ、まだ私はその実力を認めたわけではないからな」
王の右隣に立つクラウスがそんなことを言った。それを見て、やれやれという顔をするカシュー。なるほど、召喚士としての力を示せということなのだろう。
「承知した、カシュー王よ。それならば二人で向かえばいいのか?」
「魔物の大軍もいるみたいだから、もう一人従者を付けるよ。エクリアの代行魔法使いのレミリアにも同行してもらう。エクリアには許可ももらってるし、彼女は今東の防衛に向かっているからね。現場まではうちで造った車で向かうといいよ。戦車隊隊長のガレオス、お前は三人を現場まで案内してやってくれ」
クラウスの隣にいた魔法使い然とした衣装にローブを身にまとった茶髪の女性が一礼する。そしてカリナの後ろから黒い軍服を着た黒髪の青年が言葉を発した。
「御意。では城の前に戦車を止めてありますので、そこまで参りましょう」
「ふん、小娘の化けの皮を剥がしてやるからな」
憮然とした態度のクラウス。これはギスギスした旅になりそうだなと、カリナは少々うんざりした。さっさと討伐して帰還しようと思うのだった。
◆◆◆ 城を出ると、門の前に近代的な見た目をした黒い車が止めてある。だが戦車というよりは頑丈な造りをした乗用車という感じだ。カシューはこんなものまで開発していたのかと感心するが、世界観ぶち壊しの代物に妙な違和感も覚えた。馬車とかじゃないのかと。まあ早く現場に着くのならそれに越したことはない。「さあ、こちらが我が国の技術を詰め込んだ最新鋭の戦車です。四人乗りなのでレミリアとカリナさんは後ろに乗って下さい。クラウスは助手席で構わないですよね?」
「私はどこでも構わん。さっさと討伐に向かうぞ」
「では私達も乗り込みましょう、よろしくお願いしますね、カリナさん。エクリア様からお噂は聞いておりますわ」
「私の噂をエクリアから? どうせ碌でもないものなんだろうな……」
ルナフレアとの約束通り、一人称は「私」に変えている。妙な違和感だが、次第に慣れるだろうとカリナは思った。
「さあさあ、どうぞ」
ガレウスがエスコートして、ドアを開けてくれた。そこから後ろの席に乗り込む。席の前にセットされたドリンクホルダーにアイテムボックスから取り出したいちごオレを差し込んで、背もたれに身を沈めた。
「では行きますよー! 揺れますのでシートベルトをお忘れなく!」
ギャギャギャギャギャギャ!!!
「うおおおおおぃ!!!」
荒い運転でガレウスが発進する。急激なGがかかり、身体がシートに押し付けられる。そのままのペースでガレウスは目的地まで爆速で運転を続けた。
「もうちょっと安全運転はできんのか?! 危ないし気分が悪くなる!」
カリナがそう言うとガレウスは「あはは」と笑うだけだった。こいつはハンドルを握らせてはいけないタイプの人間である。現実世界でもこういった輩は存在するため、カリナは気が気ではなかった。
「ガレウス様の運転はいつもこんなものですよ、早めに慣れることをお勧めします」
平然としているレミリア。この女性もなかなかに癖が強そうである。あのエクリアの代行を務めているのだから。
「カーズ様の妹ともあろう者が、この程度の運転で音を上げるとは何とも情けないな」
クラウスは相変わらず悪態をついて来る。
「慣れていないのだから仕方ありません。クラウス失礼ですよ」
「ふん」
ガレウスに注意されて拗ねた様な反応をするクラウス。こいつは何がそんなに気に食わないのか、カリナにはさっぱりだった。
「まあいいさ、多少の悶着はパーティプレイにはよくあることだしな」
と、少々大人びた発言をしてみる。
「カリナさんはそんな幼い見た目なのに大人なのね。クラウス隊長とは大違いね」
レミリアがそんなことをわざとクラウスに聞こえる様に言った。「ふん」と不機嫌そうな反応を示すクラウス。
「それにしても召喚士なんて、珍しいですね。今ではほとんど目にすることもありませんよ」
ガレウスが素朴な疑問を口にした。
「そうなのか……。まあ確かに召喚獣を従えさせるのは結構大変だからそうなっているのかもしれないな」
召喚獣を従えさせるには、術者が一人でその対象の体力を全て削り切る必要がある。そのため、何かしらの他の技量がないとかなり苦労する。
カリナは剣術と体術をかなり鍛えているため、そこまで苦労することはなかったが、普通のプレイヤーがそれを実行するのはかなりの難易度である。VAOが現実世界となった今、そういうリスクを犯す人間が減ったと言うことなのであろう。
「まあ、この討伐任務で召喚術の神髄を見せてやるよ」
「それは頼もしいわね。楽しみにしてるわ」
レミリアの期待の言葉を受け取り、カリナはこれからまた戦いが経験できるとなってワクワクしていた。
◆◆◆ 数時間後、現地から少し離れた場所に到着した。カリナは目を閉じて探知スキルを発動させる。高原には数百のコボルドという小型の犬型の二足歩行をする魔物が溢れかえっている。そしてその一番後方に悪魔がいることを捉えた。「私はここで待機していますので、終わったら戻って来て下さいね」
ガレウスにそう言われて、カリナ達三人は車外へと飛び出した。少し小高い地形に陣取って敵の配置を確認する。
「俺がまずは飛び出して的になる、二人は援護を任せる」
そう言うと、クラウスは独りで魔物の大軍に大盾を構えて飛び出した。どうやらこちらの戦力は初めから当てにしてないかのような猛進である。
「あのバカ、独りで飛び出すなんて。私も続くわ」
「なら私は召喚術でサポートするよ。さあ、顕現せよシャドウナイトの軍勢よ!」
黒い甲冑に身を包んだ黒騎士の大軍が魔物の群れの中心に召喚される。さらに大盾を構えた白い甲冑のホーリーナイトを召喚する。
「ホーリーナイトは二人の防御に徹しろ」
そう指示されると、二体の白騎士がクラウスとレミリアのすぐ近くに移動した。
「受けろ、騎士の剣を!」
クラウスは近衛騎士団長の名に恥じない力で迫り来るコボルド達を抜刀した片手剣で斬り伏せる。
「ほほう、やるじゃないか」
「風よ、敵を斬り裂け、ウインド・カッター!」
レミリアの杖から放たれた風の鎌鼬がコボルドを斬り裂く。だが、敵の数が多い。そこで黒騎士の出番である。
数に物を言わせて、次々に雄たけびを上げて向かって来るコボルド共を叩き斬っていく。
「このまま騎士達に任せても良さそうだが、やっぱり私も前線に出るとするか。返り血を浴びるのは気が進まないから、魔法剣士の力を見せてやろう」
鞘から抜いた聖剣ティルヴィングに魔力を集中させる。
「吹き荒れる嵐よ、剣に宿れ! 魔法剣ブリザード!」」
凍結の特殊効果を付与した剣を左手に持ち、敵陣に切り込む。次々と押し寄せて来るコボルドを斬ると、その特殊効果で魔物は凍りつき粉々になった。
「よし、これで返り血は浴びないな」
それを見ていたレミリアとクラウスは驚き、声を上げる。
「すごい、あれが魔法剣士の魔法剣」
「くっ、見事だな」
油断した二人に斬りかかったコボルドの攻撃をホーリーナイトの盾が弾き返す。
「油断するな! まだ敵の数は多いぞ!」
我に返った二人は落ち着いて目の前の魔物を剣と魔法で捌いて行く。そのとき後方で待機していた悪魔が姿を現した。
目の前には大軍だったコボルドの死体が大量に転がっている。
「おのれ人間風情が、ならばこれを使わせてもらう!」
悪魔が手にしていたダーククリスタルに魔力を籠めると、巨大な魔法陣から石化の魔眼を持つ巨大な蜥蜴、バジリクスが姿を現した。
「まずい、あれはバジリスク! 目を見るな!」
そうクラウスが注意をしたのと同時に近くにいた黒騎士が一瞬でその両眼を斬り裂いた。
グギャアアアアアアアアアアア!!!
両目を潰されてのたうち回るバジリスク。そこへ数体の黒騎士の大剣からの一閃でバジリスクは肉片へと切り刻まれた。
「まさか、これほどまでは……」
「召喚術とはなんてすごい……」
驚きを隠せない二人。しかもかなりの数の召喚体を同時に使いこなすなど並の使い手ではない。
「くそが、ならば悪魔の子爵であるこの俺自ら葬ってやる!」
手にした黒い瘴気を帯びた剣を振りかざしながら、この戦力の要であるカリナに向け、翼を羽ばたかせながら迫って来る。
ガィイイイイイィン!!!
魔法剣で受け止めると、悪魔は後ろへと弾き飛ばされた。
「力を示せってことだったな。ならば見せてやるよ。召喚術の真の力を! 嘶けユニコーン! その姿を現せ!」
カリナの展開した魔法陣から一角獣が姿を現す。
「なにぃ、あれだけの数を召喚しておきながら、まだ呼び出せるというのか?!」
クラウスが驚愕の声を上げる。そして召喚されたユニコーンが輝く鎧へと姿を変え、カリナの身体に装着される。前回のペガサスと違い、背中から翼は生えていないが、頭部のサークレットにはユニコーンの象徴である鋭い一本の角が生えている。
「見せてやるよ。これが真に召喚獣と心を通わせた者だけが纏うことを許される
そのまま悪魔の目の前まで一瞬で移動すると、目の前で右足を軸に一回転、そのままの勢いで左脚から強烈な蹴りが炸裂する。
「ユニコーン
ドゴオオオオオオオオオォッ!!!
「ガハアアアアアアッ!!!」
強烈な一撃をお見舞いされた悪魔は吹き飛び、そのまま爆発して四散した。最早コボルド達は数匹を残して壊滅状態だったが、主の最後を見て、尻尾を巻いてその場から退散していった。
「す、すごい……」
「ああ、俺の考えが間違っていた……。召喚術をあそこまで高度に使いこなし、攻撃でなく我々のサポートまで。しかもあれが召喚術を極めた者だけが身に纏うことができるという伝説と言われる
召喚を解き、ユニコーンに礼を言うと、ユニコーンはカリナの顔に人懐っこそうにすり寄ってから光の粒子となって消えて行った。そして後方で戦っていた二人の下に帰還する。そこではレミリアとクラウスがその場に跪いてカリナの凱旋を待っていた。
「終わったぞ、って、どうしたんだ二人共?」
「数々の御無礼をお許し下さい。俺はあなたの力を認めようとはしなかった。白騎士に命を救って貰いました。あなたは素晴らしい召喚士だ」
「ええ、それにさきほどの輝く紫の鎧。あれが真の召喚士にしか纏えない
突然の態度の豹変に面食らうカリナだったが、召喚士の力を示すというミッションは達成されたのだった。
「あ、そういえば悪魔から情報を聞き出すのを忘れてた、いやー失敗失敗。まあ討伐任務は果たしたことだし、さっさとエデンに報告に戻ろう」
「「はい!」」
情報収集には失敗したが、カリナの初任務は無事終了した。
ザルバディオ・カルマの消滅により、再び静寂が戻ったコロシアム。だが、それは恐怖による沈黙ではない。偉大なる勝利と、平和の到来を噛みしめる安堵の静寂だった。 舞台上の瓦礫が片付けられ、表彰式の準備が整う中、実況席から一人の女性が軽やかな足取りでレオン王の下へと駆け寄った。 実況のマグダレナだ。遠目には分からなかったが、間近で見る彼女の容姿は、自ら看板娘を名乗るに相応しい華やかさを持っていた。 艶やかなエメラルドグリーンのロングヘアが背中で揺れ、その肢体はイベントを意識した大胆な衣装に包まれている。身体のラインを強調する光沢のある黒いバニースーツに、引き締まった脚線美を際立たせる網タイツ、そして黒いハイヒール。 彼女は愛嬌たっぷりの笑顔で、魔法で増幅されたマイクを差し出した。「陛下! 会場のみんなに声が届くよう、これを使って下さい!」 レオン王は目を丸くし、豪快に笑った。「おお、これは気が利かなかったな。感謝するぞ、マグダレナ」 王はマイクを受け取ると、威厳に満ちた声を会場中に響かせた。「これより! アレキサンド剣術大会、表彰式を開始する!!」 王の宣言と共に、観客席からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。舞台中央。真紅の戦装束、バトルドレスに身を包んだアリアと、泥だらけになりながらも凛と立つカリナは王の前に進み出ると、恭しく片膝をつき、その言葉を待つ。 レオン王はまず、アリアへと視線を向けた。「先ずは女神アリア殿。その凄まじい強さと、最後に見せた悪魔退治……感謝してもしきれぬ働きであった。この国を、いや、世界を救ったと言っても過言ではない」 王は近衛兵が捧げ持っていた、豪奢な装飾が施された一振りの剣を手に取る。「優勝の約束として、かつてこの国の英雄が使っていた『聖剣ジュノワーズ』を授与する。受け取られよ」 アリアは立ち上がり、その美しい剣を受け取った。だが、その表情に高ぶりはなく、あくまで涼しげだ。「私は女神として、当然のことをしただけですよ。それに、この大会に出たのも、悪に立ち向かえる力のある人間がどの程度なのかを見定めるためでしたから」 悪びれもせず言い放つアリアに、レオン王は一瞬言葉に詰まり、苦笑する。「そ、そうか……。だが、この国を救ってくれたことは紛れもない事実。深く感謝する」 王が深々と頭を下げると、アリアはに
熱狂と興奮がピークに達した決勝戦。だが、その余韻を無惨に切り裂くように、禍々しい闇が舞台を侵食した。『な……何が起こっているのでしょうか!? 決勝戦が終わった舞台に、突如として黒い影が……!』 マグダレナの悲鳴のような実況が響く。観客達もパニックに陥り、悲鳴を上げて逃げ惑う者、恐怖で腰を抜かし立ち尽くす者で会場は瞬く間に混沌と化した。「悪魔だ……! 本物の悪魔が出たぞ!」「逃げろ! 魂を喰われるぞ!」 その混乱の中、解説席のレオン王が立ち上がり、声を張り上げた。『うろたえるな! 皆の者、落ち着け! まさか悪魔が直接乗り込んで来るとは……! だが、近衛騎士団、すぐに観客の避難誘導を! 決してパニックになるな!』 王の必死の呼びかけも、圧倒的な恐怖の前では力を持たない。カリナ達の貴賓席も騒然となっていた。「あれが……、災禍六公……?! エデンを襲撃した悪魔の一味よ!」 カグラが目を見開き、震える声で叫ぶ。彼女の脳裏には、カシューから聞いた情報が警鐘のごとく響いていた。エデンを襲撃した悪魔の一味。エクリアが禁呪レベルの破壊魔法で消滅させたと聞いた一体。それと同じレベルの存在が現れたのだ。 以前ガリフロンド公国で死闘を繰り広げた災禍伯メリグッシュ・ロバス。目の前の悪魔が放つプレッシャーは、その怪物に勝るとも劣らない。そんな絶望的な存在が、なぜこんな場所に現れたのか。カグラは戦慄を抑えきれなかった。「とんでもない力を感じるぞ……あの悪魔は……」 カーセルが顔を青ざめさせ、剣の柄に手をかけるが、その手は震えている。カインも歯を食いしばった。「おいおい、冗談だろ……? あんなのが幹部クラスだってのかよ……」「空気が……重い。息をするだけで肺が焼けるみたいだわ」 ユナが胸元を押さえて苦しげに呻く。テレサも怯えたように身をすくませた。「あんな禍々しい気配……初めてです……」 エリック達の席でも、同様の動揺が走っていた。「まさか、こんなところにまで単身で乗り込んでくるとはな……! 正気じゃねえ!」 エリックが脂汗を流す。隣のディードが耳を押さえてうずくまる。「嫌な音……。世界が悲鳴を上げている音がする……」 「団長……あいつ、私達とは次元が違い過ぎます……!」 テレジアも絶望的な表情で首を振った。 舞台中央。闇の中から
熱狂と興奮が飽和するコロシアム。 準決勝第二試合の衝撃的な決着から一息つき、休憩終了の鐘が高らかに鳴り響いた。 魔法マイクを握りしめたマグダレナが、震える声で告げる。『さあ、皆様! いよいよ、この大会のクライマックス! 決勝戦の幕が開きます! これまで無傷で勝ち上がって来た両者が、ついに激突します! 一体どんな戦いになるのか、私の実況では言葉が追いつかないかもしれません!』 解説席のレオン王も、深く頷きながら前を見据えた。『うむ。英雄と謎の女神……今ここアレキサンドで今、最も注目される二人の激突だ。決勝に相応しい、最高のカードと言えるだろう』 カリナ達がいる貴賓席。カリナが静かに立ち上がった。その背中を、カグラがぎゅっと抱きしめる。「カリナちゃん……気を付けてね。でも、あの余裕ぶっこいた女神の顔色、変えてきてやりなさいよ!」 「ああ。ここまで来たら、全力でぶつかるだけだ。ありがとう、カグラ」 カリナはカグラの手を握り返し、仲間達の顔を見渡した。 エリアが拳を突き上げる。「行けーっ! カリナちゃん! 私たちの分まで!」「おう! 頼んだぜ!」「カリナ嬢ちゃん、武運を」「カリナちゃん、頑張って下さい!」 ロック、アベル、セレナの声援。更にルミナスアークナイツの面々も声を張り上げる。「カリナちゃん! 僕達も全力で応援するからね!」「負けんじゃねーぞ! カリナちゃん!」「カリナちゃん、ファイト!」「頑張って下さい、カリナさん!」 カーセル、カイン、ユナ、テレサ。そしてケット・シー隊員も「隊長、応援するにゃー!」と叫んでいる。カリナは彼らに力強く手を振って応え、舞台へ足を進めた。 一方、アリアがいる貴賓席。アリアは優雅に髪をかき上げた。「ようやく決勝ですか。さて、カリナさんがどうくるのか、楽しみですねぇ」 余裕の笑みを浮かべ、彼女もまた舞台へと向かう。その様子を、エリック達が見送っていた。「……いよいよだな」「ええ。カリナさんの剣が、あの方に届くのか……見ものです」「人間離れした戦いになるでしょうね」 エリック、テレジア、ディード。彼らもまた、固唾を飲んでこの一戦を見守ろうとしていた。 二人の戦士が、まばゆい陽光の下へと現れる。『まずは、エデンが誇る特記戦力にして、ザラーの街を救った可憐な戦乙女! 召喚魔法剣士、カリナァァァーッ!
熱い興奮が渦巻くコロシアム。 準決勝第一試合の余韻が残る中、実況のマグダレナが魔法マイクを握り直し、高らかに声を張り上げた。『さあ、息つく暇もありません! 続いて行われるのは準決勝、第二試合! 決勝でカリナ選手と戦うのは、果たしてどちらの選手になるのでしょうか!』 エリック達が陣取る貴賓席。出番を控えたテレジアが、静かに愛剣の点検を終えて立ち上がった。その背中に、先ほど敗れたばかりの団長、エリックが声をかける。「テレジア、行けるか?」 「ええ、団長。……敵討ち、とはいかないかもしれませんが」 「バカが、俺のことはいい。それより……あいつは得体が知れない。気を付けろよ」 エリックの表情は真剣そのものだった。長年の勘が、対戦相手であるアリアの異常性を警告しているのだ。「ええ、分かっています。これまでも全て一撃、それも目にも止まらぬ速さで試合を決めて来た異常な存在……。心して、行ってきます」 テレジアは凛とした表情で頷き、扉を開けて舞台へと向かった。 一方、アリアが陣取る貴賓席。アリアは軽く屈伸をし、伸びをしていた。「んーっ……。さてと。今回は純粋に剣技のみでやりましょうかね」 彼女は誰に聞かせるでもなく独りごち、楽しそうに笑みを浮かべて舞台へと歩みを進める。『まずは、予選からここまで、全ての試合を一撃のもとに決着させてきた謎の美女! 自ら女神を名乗るアリア! その真紅の装備に、今度こそダメージが入ることはあるのでしょうかーっ!?』 観客の視線が一斉に注がれる中、アリアが優雅に手を振って登場する。その余裕綽々とした態度は、これから死闘に赴く戦士のそれではない。まるで庭の散歩にでも来たかのようだ。『対するは、先程のエリック選手と同じ、武大国アーシェラのAランクギルド『ドラゴンベイン・オーダー』所属! 氷の魔法剣士、テレジアァァッ!!』 対面から、一陣の涼やかな風と共にテレジアが現れる。 淡い水色のセミロングヘアが風に揺れ、氷のような青銀のライトアーマーが陽光を反射して輝く。青い膝丈のスカートと白いブーツが、彼女の可憐さと剣士としての凛々しさを引き立てていた。 その長い耳と整った顔立ちは、彼女が高貴なエルフであることを示している。腰には、細身のレイピアに近い片手剣が帯びられている。 解説席のレオン王が頷いた。『うむ。剛剣のエ
準決勝を控えた休憩時間。貴賓席は、先ほどの熱戦の余韻と、次なる戦いへの期待に満ちていた。中央のテーブルを囲むように、シルバーウイングとルミナスアークナイツの面々が集まっている。「ここからは、カリナちゃんを一生懸命応援するよ! みんな!」 敗退したばかりのエリアが、真っ先に声を上げた。その表情に暗さはなく、親友の背中を押す決意に満ちている。ロックがいつまでも食べているサンドイッチを握り拳で掲げた。「もちろんだ! がんばれよカリナちゃん! エリアの分まで頼んだぜ!」「うむ、健闘を祈る。相手は未知数の強敵だが、カリナ嬢ちゃんなら大丈夫だろう」 アベルも深く頷き、どっしりとした声でエールを送る。テレサは、どこか夢見心地な様子で頬を紅潮させていた。「はぁ……カリナちゃんの戦いに集中できるなんて……眼福です。あの流麗な魔法剣技、一瞬たりとも見逃せません」「そうだね。僕達も一生懸命応援するよ。カリナちゃんの勝利を信じてる」 カーセルが穏やかに微笑む。カインはニカっと笑い、背負った槍の柄を叩いた。「まあ、カリナちゃんが負けるところなんて想像がつかねーけどな!」「でも、油断は禁物よ。あの大剣使いも中々やり手っぽいわ」 ユナが少し真剣な顔つきで釘を刺す。テレサも頷き、言葉を継いだ。「そうですね。それでも、カリナさんが勝つところを見たいです。私達の希望ですから」「隊長が負けるわけがないのにゃ! 最強なのにゃ!」 足元でケット・シー隊員が胸を張り、ふんすと鼻を鳴らす。カリナは仲間達の温かい言葉に目を細め、力強く頷いた。「みんなありがとう。ベストを尽くすよ」 その時、カグラがそっとカリナに近づき、周囲に聞こえないよう小声で囁いた。「……相手がもし『PC』なら油断はできないわ。最初から思いっきりやってやりなさいよ、カリナちゃん」「ああ、油断はしないよ。一合打ち合えば、それだけでわかるだろうさ」 カリナは静かに闘志を研ぎ澄ませる。相手が自分と同じ領域にいる存在かもしれないという予感が、心地良い緊張感となって全身を巡っていた。 やがて、休憩終了を告げる鐘が高らかに鳴り響いた。『それでは、準決勝第一試合を開始いたします!』 マグダレナの声が会場の空気を引き締める。二人の戦士が、それぞれの貴賓席から舞台へと向かう。『まずは、エデンが誇る美少女召喚魔法剣
休憩時間。カリナ達がいる貴賓席では、和やかなティータイムが始まっていた。「次はカリナちゃんとの戦いかー。……やっとだね」 大会スタッフが用意した紅茶を一口飲み、エリアが不敵な笑みを浮かべる。その瞳は、親愛なる友に向ける優しさと、一人の剣士としての闘争心が入り混じっていた。「ああ。楽しみだな、エリア」 カリナもまた、カップを置いて微笑む。言葉数は少ないが、その瞳の奥には静かな炎が燃えている。 そんな二人を見て、カグラが胸を張った。「ふふっ、覚悟しなさいよエリアちゃん。私の妹分は強いわよー?」 「それはもちろん知ってますよ、カグラさん。ずっと間近で見て来ましたからね」 エリアはニッと白い歯を見せる。「でも、勝つ気でいきます! カリナちゃんが強いのは百も承知。だけど、私もシルバーウイングの副団長として、簡単に負けるわけにはいかないのよ!」 「おう、威勢がいいこった! まあ、一太刀入れられたら十分だと思ってるけどな!」 ロックがサンドイッチを頬張りながら茶化すと、アベルも深く頷いた。「ああ。あのカリナ嬢ちゃんだ。勝つのは至難の業だろう」 「エリア、貴方の剣技の冴えならいい勝負になると思いますが、カリナちゃんのあの冷徹なまでの先読み……あれを崩せるかどうかですね」 セレナが頬を紅潮させながら、どこか楽しげに分析する。「もうっ! アンタ達、同じギルドメンバーなのに酷いわね!」 エリアが頬を膨らませると、全員がどっと笑った。その温かい笑い声に、ルミナスアークナイツの面々も加わる。「はは……僕もカリナちゃんには手も足も出なかったけど、エリアさんには期待してるよ」 カーセルが苦笑交じりにエールを送る。「そうよエリアちゃん! カリナちゃんは強過ぎるからね。一太刀入れれば実質勝ちみたいなものよ!」 「ああ。あの反応速度と技のキレは異常だ。エリア、気合入れてけよ!」 ユナとカインも、カリナの強さを認めた上でエリアを鼓舞する。テレサは穏やかに微笑み、二人を見比べた。「でも、勝負は時の運もありますから。どちらが勝つにせよ、素晴らしい試合を期待してます」 「ありがとう、テレサの言う通りだな」 カリナとエリアは顔を見合わせ、頷き合った。 ◆◆◆ 休憩終了の鐘が鳴り響く。『さあ皆様、長らくお待たせいたしました! これより三回戦、準々決勝の第一
コロシアム上空に浮かぶ太陽が、白熱した午前の試合を終えた戦士達を労うように、柔らかくも力強い日差しを降り注いでいた。 一般席とは隔絶された、選手とその関係者のみが入ることを許された貴賓席。舞台が良く見えるそのスペースには、大会運営のスタッフによって豪華な食事が所狭しと並べられている。 張り詰めていた試合の空気はふっと緩み、シルバーウイングのギルドメンバーやルミナスアークナイツの面々、そしてケット・シー隊員達を交えた、和やかなランチタイムが既に和気あいあいと繰り広げられている。「いやあ、午前中の試合も見応えあったな! 特にカリナちゃん、初戦の相手を凄い動きで翻弄しちまうんだから、見てて
精霊の塔・最上階。 石床は砕け、空気は灼け、カリナの呼吸は荒くなっていた。剣を振るうたび、腕に重くのしかかる衝撃。魔法剣士として精霊と呼吸を合わせることができない純粋な剣技だけでは、それを振るう悪魔の膂力の前では分が悪すぎる。「くっ、はぁっ……!」 アグノス・レギウスの大剣が、横薙ぎに唸る。受け止めきれず、カリナは後退する。衝撃を殺しきれず、床に深い溝が刻まれる。一撃一撃が、確実にカリナの命を削りに来ていた。「終わりだ、召喚士カリナ。その剣では、ここまでだ」 アグノスがトドメの構えに入る。もはや回避も防御も間に合わない距離。絶望的な質量が頭上から迫る。 その瞬間―― カラ
精霊王の姿が消え、最上階に静寂が戻った。 だが、今のカリナが纏う空気は、塔に来る前のそれとは明らかに異なっていた。肌は内側から発光するように透明感を増し、その身に纏う魔力はどこまでも清浄で、かつ濃密だ。「……すごいにゃ、隊長」 物陰から恐る恐る出てきた隊員が、カリナを見上げて目を丸くした。「なんかこう、ピカピカしてるにゃ。神様みたいにゃ。近くにいるだけで身体の奥から元気が湧いてくるにゃ!」「ふふ、そうか? 自分ではあまり分からないが……確かに、身体は羽が生えたように軽いな」 カリナは自身の掌を見つめ、握りしめた。 精霊達の声が、五感を通してダイレクトに響いてくる。風の
「そろそろ彼らは遺跡の悪魔と遭遇した頃でしょうか?」 ルミナス聖光国教会。女神像の前で祈りを捧げる一人のシスターが、遠い戦場に想いを馳せて呟いた。「そうかもしれぬな。先程から街を包む空気が重く淀んでいる。……お迷いですか、サティア様」 問いかけに答えたのは、神父長のマシューだ。長い髭を蓄えた威厳ある老人だが、彼はまるで母に接するかのように、変わらぬ敬意を込めて「様」をつける。100年もの間、姿を変えずにこの街を見守り続けてきたPC、サティア。老いることのない奇跡の存在。この世界の住人には、彼女は生ける伝説として映っていた。「ええ……。カリナさんは強い人です。私などがいなくても、きっと







