Masuk玉座の間の入り口に立つと、衛兵たちが扉を開けてくれた。そのままカシューが座る玉座まで移動する。
「よく来てくれたね。今日はちょっと厄介ごとがあってね」
砕けた口調でカシューが切り出した。王としてのロールプレイはどうしたんだ?
「ほう、厄介ごととは?」
「ここから西の高原に悪魔が出現したという報告があってね、ちょっと行って討伐して欲しいんだ。それと……」
「私も同行する。いかにカーズ様の妹とはいえ、まだ私はその実力を認めたわけではないからな」
王の右隣に立つクラウスがそんなことを言った。それを見て、やれやれという顔をするカシュー。なるほど、召喚士としての力を示せということなのだろう。
「承知した、カシュー王よ。それならば二人で向かえばいいのか?」
「魔物の大軍もいるみたいだから、もう一人従者を付けるよ。エクリアの代行魔法使いのレミリアにも同行してもらう。エクリアには許可ももらってるし、彼女は今東の防衛に向かっているからね。現場まではうちで造った車で向かうといいよ。戦車隊隊長のガレオス、お前は三人を現場まで案内してやってくれ」
クラウスの隣にいた魔法使い然とした衣装にローブを身にまとった茶髪の女性が一礼する。そしてカリナの後ろから黒い軍服を着た黒髪の青年が言葉を発した。
「御意。では城の前に戦車を止めてありますので、そこまで参りましょう」
「ふん、小娘の化けの皮を剥がしてやるからな」
憮然とした態度のクラウス。これはギスギスした旅になりそうだなと、カリナは少々うんざりした。さっさと討伐して帰還しようと思うのだった。
◆◆◆ 城を出ると、門の前に近代的な見た目をした黒い車が止めてある。だが戦車というよりは頑丈な造りをした乗用車という感じだ。カシューはこんなものまで開発していたのかと感心するが、世界観ぶち壊しの代物に妙な違和感も覚えた。馬車とかじゃないのかと。まあ早く現場に着くのならそれに越したことはない。「さあ、こちらが我が国の技術を詰め込んだ最新鋭の戦車です。四人乗りなのでレミリアとカリナさんは後ろに乗って下さい。クラウスは助手席で構わないですよね?」
「私はどこでも構わん。さっさと討伐に向かうぞ」
「では私達も乗り込みましょう、よろしくお願いしますね、カリナさん。エクリア様からお噂は聞いておりますわ」
「私の噂をエクリアから? どうせ碌でもないものなんだろうな……」
ルナフレアとの約束通り、一人称は「私」に変えている。妙な違和感だが、次第に慣れるだろうとカリナは思った。
「さあさあ、どうぞ」
ガレウスがエスコートして、ドアを開けてくれた。そこから後ろの席に乗り込む。席の前にセットされたドリンクホルダーにアイテムボックスから取り出したいちごオレを差し込んで、背もたれに身を沈めた。
「では行きますよー! 揺れますのでシートベルトをお忘れなく!」
ギャギャギャギャギャギャ!!!
「うおおおおおぃ!!!」
荒い運転でガレウスが発進する。急激なGがかかり、身体がシートに押し付けられる。そのままのペースでガレウスは目的地まで爆速で運転を続けた。
「もうちょっと安全運転はできんのか?! 危ないし気分が悪くなる!」
カリナがそう言うとガレウスは「あはは」と笑うだけだった。こいつはハンドルを握らせてはいけないタイプの人間である。現実世界でもこういった輩は存在するため、カリナは気が気ではなかった。
「ガレウス様の運転はいつもこんなものですよ、早めに慣れることをお勧めします」
平然としているレミリア。この女性もなかなかに癖が強そうである。あのエクリアの代行を務めているのだから。
「カーズ様の妹ともあろう者が、この程度の運転で音を上げるとは何とも情けないな」
クラウスは相変わらず悪態をついて来る。
「慣れていないのだから仕方ありません。クラウス失礼ですよ」
「ふん」
ガレウスに注意されて拗ねた様な反応をするクラウス。こいつは何がそんなに気に食わないのか、カリナにはさっぱりだった。
「まあいいさ、多少の悶着はパーティプレイにはよくあることだしな」
と、少々大人びた発言をしてみる。
「カリナさんはそんな幼い見た目なのに大人なのね。クラウス隊長とは大違いね」
レミリアがそんなことをわざとクラウスに聞こえる様に言った。「ふん」と不機嫌そうな反応を示すクラウス。
「それにしても召喚士なんて、珍しいですね。今ではほとんど目にすることもありませんよ」
ガレウスが素朴な疑問を口にした。
「そうなのか……。まあ確かに召喚獣を従えさせるのは結構大変だからそうなっているのかもしれないな」
召喚獣を従えさせるには、術者が一人でその対象の体力を全て削り切る必要がある。そのため、何かしらの他の技量がないとかなり苦労する。
カリナは剣術と体術をかなり鍛えているため、そこまで苦労することはなかったが、普通のプレイヤーがそれを実行するのはかなりの難易度である。VAOが現実世界となった今、そういうリスクを犯す人間が減ったと言うことなのであろう。
「まあ、この討伐任務で召喚術の神髄を見せてやるよ」
「それは頼もしいわね。楽しみにしてるわ」
レミリアの期待の言葉を受け取り、カリナはこれからまた戦いが経験できるとなってワクワクしていた。
◆◆◆ 数時間後、現地から少し離れた場所に到着した。カリナは目を閉じて探知スキルを発動させる。高原には数百のコボルドという小型の犬型の二足歩行をする魔物が溢れかえっている。そしてその一番後方に悪魔がいることを捉えた。「私はここで待機していますので、終わったら戻って来て下さいね」
ガレウスにそう言われて、カリナ達三人は車外へと飛び出した。少し小高い地形に陣取って敵の配置を確認する。
「俺がまずは飛び出して的になる、二人は援護を任せる」
そう言うと、クラウスは独りで魔物の大軍に大盾を構えて飛び出した。どうやらこちらの戦力は初めから当てにしてないかのような猛進である。
「あのバカ、独りで飛び出すなんて。私も続くわ」
「なら私は召喚術でサポートするよ。さあ、顕現せよシャドウナイトの軍勢よ!」
黒い甲冑に身を包んだ黒騎士の大軍が魔物の群れの中心に召喚される。さらに大盾を構えた白い甲冑のホーリーナイトを召喚する。
「ホーリーナイトは二人の防御に徹しろ」
そう指示されると、二体の白騎士がクラウスとレミリアのすぐ近くに移動した。
「受けろ、騎士の剣を!」
クラウスは近衛騎士団長の名に恥じない力で迫り来るコボルド達を抜刀した片手剣で斬り伏せる。
「ほほう、やるじゃないか」
「風よ、敵を斬り裂け、ウインド・カッター!」
レミリアの杖から放たれた風の鎌鼬がコボルドを斬り裂く。だが、敵の数が多い。そこで黒騎士の出番である。
数に物を言わせて、次々に雄たけびを上げて向かって来るコボルド共を叩き斬っていく。
「このまま騎士達に任せても良さそうだが、やっぱり私も前線に出るとするか。返り血を浴びるのは気が進まないから、魔法剣士の力を見せてやろう」
鞘から抜いた聖剣ティルヴィングに魔力を集中させる。
「吹き荒れる嵐よ、剣に宿れ! 魔法剣ブリザード!」」
凍結の特殊効果を付与した剣を左手に持ち、敵陣に切り込む。次々と押し寄せて来るコボルドを斬ると、その特殊効果で魔物は凍りつき粉々になった。
「よし、これで返り血は浴びないな」
それを見ていたレミリアとクラウスは驚き、声を上げる。
「すごい、あれが魔法剣士の魔法剣」
「くっ、見事だな」
油断した二人に斬りかかったコボルドの攻撃をホーリーナイトの盾が弾き返す。
「油断するな! まだ敵の数は多いぞ!」
我に返った二人は落ち着いて目の前の魔物を剣と魔法で捌いて行く。そのとき後方で待機していた悪魔が姿を現した。
目の前には大軍だったコボルドの死体が大量に転がっている。
「おのれ人間風情が、ならばこれを使わせてもらう!」
悪魔が手にしていたダーククリスタルに魔力を籠めると、巨大な魔法陣から石化の魔眼を持つ巨大な蜥蜴、バジリクスが姿を現した。
「まずい、あれはバジリスク! 目を見るな!」
そうクラウスが注意をしたのと同時に近くにいた黒騎士が一瞬でその両眼を斬り裂いた。
グギャアアアアアアアアアアア!!!
両目を潰されてのたうち回るバジリスク。そこへ数体の黒騎士の大剣からの一閃でバジリスクは肉片へと切り刻まれた。
「まさか、これほどまでは……」
「召喚術とはなんてすごい……」
驚きを隠せない二人。しかもかなりの数の召喚体を同時に使いこなすなど並の使い手ではない。
「くそが、ならば悪魔の子爵であるこの俺自ら葬ってやる!」
手にした黒い瘴気を帯びた剣を振りかざしながら、この戦力の要であるカリナに向け、翼を羽ばたかせながら迫って来る。
ガィイイイイイィン!!!
魔法剣で受け止めると、悪魔は後ろへと弾き飛ばされた。
「力を示せってことだったな。ならば見せてやるよ。召喚術の真の力を! 嘶けユニコーン! その姿を現せ!」
カリナの展開した魔法陣から一角獣が姿を現す。
「なにぃ、あれだけの数を召喚しておきながら、まだ呼び出せるというのか?!」
クラウスが驚愕の声を上げる。そして召喚されたユニコーンが輝く鎧へと姿を変え、カリナの身体に装着される。前回のペガサスと違い、背中から翼は生えていないが、頭部のサークレットにはユニコーンの象徴である鋭い一本の角が生えている。
「見せてやるよ。これが真に召喚獣と心を通わせた者だけが纏うことを許される
そのまま悪魔の目の前まで一瞬で移動すると、目の前で右足を軸に一回転、そのままの勢いで左脚から強烈な蹴りが炸裂する。
「ユニコーン
ドゴオオオオオオオオオォッ!!!
「ガハアアアアアアッ!!!」
強烈な一撃をお見舞いされた悪魔は吹き飛び、そのまま爆発して四散した。最早コボルド達は数匹を残して壊滅状態だったが、主の最後を見て、尻尾を巻いてその場から退散していった。
「す、すごい……」
「ああ、俺の考えが間違っていた……。召喚術をあそこまで高度に使いこなし、攻撃でなく我々のサポートまで。しかもあれが召喚術を極めた者だけが身に纏うことができるという伝説と言われる
召喚を解き、ユニコーンに礼を言うと、ユニコーンはカリナの顔に人懐っこそうにすり寄ってから光の粒子となって消えて行った。そして後方で戦っていた二人の下に帰還する。そこではレミリアとクラウスがその場に跪いてカリナの凱旋を待っていた。
「終わったぞ、って、どうしたんだ二人共?」
「数々の御無礼をお許し下さい。俺はあなたの力を認めようとはしなかった。白騎士に命を救って貰いました。あなたは素晴らしい召喚士だ」
「ええ、それにさきほどの輝く紫の鎧。あれが真の召喚士にしか纏えない
突然の態度の豹変に面食らうカリナだったが、召喚士の力を示すというミッションは達成されたのだった。
「あ、そういえば悪魔から情報を聞き出すのを忘れてた、いやー失敗失敗。まあ討伐任務は果たしたことだし、さっさとエデンに報告に戻ろう」
「「はい!」」
情報収集には失敗したが、カリナの初任務は無事終了した。
一夜明け、ザラーの街に清々しい朝が訪れた。窓から差し込む陽光に目を細めながら、カリナはベッド脇の例の「メイド隊からの衣装」セットの二つ目を取り出した。「……さて、今日の『着せ替え』はなんだ?」 恐る恐る広げたその衣装を見て、カリナは天を仰いだ。「あいつら……本当に森に行く気があるのか?」 そこに入っていたのは、白を基調とし、鮮やかな黄緑と黄色のリボンやフリルがあしらわれた、体のラインが出るタイトなローブ。しかもフードには、ふっくらとした「猫耳」がついている。インナーは紫に白と黒のデザインが施されたシックなワンピースだが、足元はガーターベルト付きの白いニーハイソックスに、黒地に白いラインが入ったショートブーツという、絶対領域を強調するような組み合わせだ。「防御力と動きやすさは最高級の素材らしいが……この猫耳は必要なのか? 完全にコスプレじゃないか」 ブツブツ文句を言いつつも着替えて鏡の前に立つと、そこにはあざといほどに可愛い「猫耳魔法少女」が完成していた。悔しいが、サイズも完璧だ。「ま、誰も見てない森の中だ。我慢するか」 フードを被って猫耳をピコピコさせながら、身だしなみを整えて隊員と共に階下へ降りる。「おはようございますにゃ、隊長。今日もバッチリ可愛いですにゃ」 「うるさい。行くぞ」 食堂に降りると、女将さんが満面の笑みで駆け寄ってきた。「おはよう、英雄さん! 昨日はあんたのおかげで、夜遅くまで祝杯を挙げる客で大忙しだったよ! 街を救ってくれて本当にありがとうねぇ」「いや、私はただのきっかけだ。皆が頑張ったからだよ」「謙虚だねぇ。さあ、今日はサービスで特盛にしておいたよ! しっかりおあがり!」 出された朝食は、厚切りのベーコンエッグに、山盛りのサラダ、そして焼きたてのパンと具沢山のスープ。カリナと隊員は感謝してそれを平らげ、エネルギーを充填した。 宿を出て、人目が少ない場所でペガサスを召喚する。カリナは猫耳フードを抑えながら天馬に跨り、北西の空へと舞い上がった。 ◆◆◆ ザラーの街を離れ、しばらく飛ぶと、眼下の景色は荒野から深い緑へと変わっていった。 『世界樹の森』。 その名の通り、視界の果てまで続く樹海だ。そしてその遥か彼方には、雲を突き抜けるほど巨大な一本の樹――世界樹が鎮座している。「でかいな……。遠近感がお
「うおおおおおおっ!! 勝ったぞぉぉぉぉ!!」 「我々の勝利だ! アレキサンド万歳! 緑の戦女神、万歳!」 総裁バズズが燃え尽き、残った魔物の群れが霧散したのを見届けた瞬間、砦に詰めていた騎士達や冒険者達から、大地を揺るがすような歓声が爆発した。彼らは武器を放り出し、兜を脱ぎ捨てて、戦場の中心で悪魔の素材を回収していたカリナの元へと駆け寄ってくる。「すげえ……本当に一人で、軍勢ごと悪魔を倒しちまったぞ……!」 「なんて強さだ、それに近くで見ると本当にお人形さんのように可愛らしい……!」 「あの細い腕のどこにあんな力が……。まさに戦場に降り立った女神だ!」 血と土埃にまみれたむさ苦しい男達が、キラキラした尊敬の眼差しでカリナを取り囲み、口々に称賛を浴びせる。その中心で、カリナの肩に乗ったケット・シー隊員は、ふんぞり返るように胸を張り、これ以上ないほどのドヤ顔を晒していた。「ふっふーん! 見たのにゃお前達! これが隊長の実力にゃ! もっと褒めて、もっと崇めるにゃ!」 まるで自分が倒したかのような態度だが、誰もそれを咎めない。むしろ「何だこの猫可愛いな」と頭を撫でられ、満更でもなさそうだ。 一方、当のカリナは居心地が悪そうに頬を掻いた。「いや、戦乙女とか女神とか、そういうのは止めてくれ。私はただの冒険者だよ」「ご謙遜を! 貴女様は今日、間違いなくこのザラーの街を、いや、アレキサンドの危機を救って下さったのです!」 指揮官を務めていたアレキサンドの騎士団長らしき男が、カリナの前に進み出て最敬礼をした。「この武功、必ずや本国のアレキサンド国王陛下にご報告致します。貴女様のような英雄が訪れてくれたとなれば、陛下も大層お喜びになるでしょう。是非いつか、王都へもお越しください。国を挙げて歓迎致します!」「あ、ああ……機会があればな」 熱烈な歓迎ぶりに、カリナはタジタジだ。このままでは胴上げでもされかねない雰囲気を感じ取り、カリナは素早く空を見上げた。「では、私は報告があるから戻る。後は任せるよ」「はっ! この御恩は忘れません! 緑の戦乙女に栄光あれ!」「戦乙女に栄光あれ!!」 数百人の兵士達が一斉に剣を掲げ、勝鬨を上げる。その熱狂的な声を背に受けて、カリナは再びペガサスを召喚し、隊員と共に空へと舞い上がった。 太陽はまだ高く、まぶしい日差しが照り
ヒースの部屋を出てロビーに戻ると、そこは殺気立った空気に包まれていた。 負傷している者、装備を点検して飛び出していく者。怒号と悲鳴が飛び交う中、数人の冒険者が地図を囲んで深刻な顔で話し合っているのが耳に入った。「南西の防衛線が危ない! 急造の砦を築いて凌いでいるが、魔物の数が多すぎる!」 「正規軍の騎士団も限界だ。このままじゃザラーまで雪崩れ込んでくるぞ!」 彼らの会話を聞いたカリナは、迷わず彼らの元へと歩み寄った。「その南西の砦、私が加勢に行こう」 凛とした声に、冒険者達が振り返る。だが、彼らの目に映ったのは、フリルたっぷりの緑のドレスコートを着た、深窓の令嬢のような美少女と、二足歩行の猫だった。「はぁ? なんだお嬢ちゃん、迷子か?」 「悪いが今は遊んでる場合じゃねぇんだ。お人形さんごっこなら他所でやってくれ」 男達は呆れたように手を振って追い払おうとする。無理もない。この血生臭い状況に、カリナの姿はあまりにも不釣り合いだった。「遊びじゃない。私は冒険者だ。その砦に向かうと言っているんだ」 カリナが出口へ向かおうとすると、男達が慌てて立ちはだかった。「おい待て待て! 死にに行く気か!?」 「そこはピクニックに行く場所じゃねぇんだぞ! そんなフリフリの恰好で戦場に行ってみろ、魔物の餌になるだけだ!」 「悪いことは言わねぇ、家に帰ってママのミルクでも飲んでな!」「隊長は凄いのにゃ! お前達こそ控えおろうなのにゃ!」 彼らは本気で心配し、必死に止めようとしている。根は良い奴らなのだろう。だが、今は一刻を争う。カリナは懐からAランクのギルドカードを取り出し、彼らの目の前に提示した。「忠告は感謝する。だが、心配は無用だ。私はAランク冒険者のカリナ。組合長ヒースからも直々に討伐の許可を得ている」 黄金色に輝くカードを見た瞬間、男達の顔色が変わり、ロビー中がどよめいた。「え、Aランク……!? この歳でか!?」 「ま、待てよ、カリナって……あのルミナス聖光国を救ったっていう、エデンの凄腕召喚士か!?」 噂はここまで届いていたらしい。彼らの表情が、驚愕から縋るような希望へと変わる。「あんたがあの英雄なのか……?! 俺達じゃどうにもなんねぇ数なんだ! 頼む、仲間達を助けてやってくれ!」「ああ、任された。吉報を待っていてくれ」「任せておくにゃ」
エデンを飛び立ち、ペガサスに乗って北西へ。眼下には雄大な景色が広がる。高度が上がるにつれ風は冷たくなり始めていたが、ペガサスの発する魔力の加護と、ルナフレアから渡された厚手のコートのおかげで、空の旅は快適そのものだった。 やがて右手遠くに、堅牢な城壁に囲まれた巨大な都市が見えてきた。無数の塔と城壁が幾重にも連なる、武骨ながらも美しい石造りの国。「あれが初期五大国の一つ、今の騎士国アレキサンドか……」 かつてゲーム時代、メインキャラであるカーズも、そしてこのサブキャラであるカリナも、冒険のスタート地点として選んだのがこの国だった。騎士や剣士など、物理防御と攻撃に特化した兵科を多く輩出する国。兄設定であるカーズがカシュー達とエデンを建国するずっと前、初心者時代に剣の腕を磨いた場所でもある。懐かしい景色に目を細めつつ、カリナはそこを通過し、さらに西へと進路を取った。 何度か地上に降りてペガサスを休ませ、隊員と軽食をとりながら進むうちに、太陽は西の地平線へと沈みかけ、空が紫と茜色のグラデーションに染まり始めた。「隊長、そろそろ日が暮れますにゃ。お腹も空いたにゃ」「そうだな。夜間の飛行は視界も悪いし、今日はこの辺りで宿をとろう」 カリナは眼下に見えてきた街の近くにペガサスを降ろした。労いの言葉と共に送還し、隊員を連れて徒歩で街の南門へと向かう。 見えてきたのは、高い石壁に囲まれた街。近づくにつれ、カリナは違和感を覚えた。記憶にあるここ「ザラーの街」は、ゲーム開始直後のプレイヤーが集まる、のどかで開放的な初心者用の街だったはずだ。 だが、目の前にあるのは、無数の傷跡が刻まれた分厚い城壁と、物々しいバリケード。100年という時は、平和だった始まりの街を、魔物の脅威に晒される最前線の拠点へと変貌させていたのだ。 石造りの門の前には、二人の兵士が立っていた。槍を持ち、アレキサンドの紋章が入った鎧を着ているが、その眼差しは鋭く、妙に殺気立っている。「止まれ。これより先はアレキサンド領ザラーの街だ。身分証の提示を」「ああ、冒険者だ」 カリナは首に掛けていたギルドカードを外し、兵士に手渡した。兵士は事務的な手つきでカードを受け取り、そこに刻まれたランクと名前を確認する。そして次の瞬間、その目が驚愕に見開かれた。「えっ……Aランク!? それに、名前はカリナ……
演習場での模擬戦は、カリナの圧倒的な勝利に終わった。リーサは完膚なきまでに叩きのめされたが、その表情は晴れやかだった。目の当たりにした召喚術の神髄に、彼女は心の底から感動していたのだ。 その後、一行は玉座の間へと移動した。カシュー王が玉座に腰を下ろし、エクリア、アステリオン、レミリア、そしてカリナとリーサがその前に並ぶ。騎士団の面々やルナフレアは、少し離れた場所で見守っていた。 カシュー王が威厳のある声で告げる。「これより、エルフの召喚士リーサを、エデン王国筆頭召喚術士カリナの代行として任命する」リーサは緊張した面持ちで、カシュー王の言葉に耳を傾ける。「リーサよ、カリナはエデンの特記戦力であり、その力は我が国の要である。しかし、彼女は多忙な身であり、常にこの地に留まることはできない。其方には、彼女の不在時にその力を代行し、エデンを守る重要な役割を担ってもらいたい」「ははっ、身に余る光栄にございます」 リーサは深く頭を下げ、カシュー王の言葉を承諾した。「カリナ、其方からも言葉をかけてやってくれ」 カシュー王に促され、カリナが前に出る。彼女はリーサを見つめ、静かに語りかけた。「リーサ、お前の実力は認める。だが、召喚術の道は険しい。決して慢心せず、精進を怠るなよ」「はい! 肝に銘じます、師匠!」「だから師匠はやめろと言っただろう」 カリナは苦笑しながらも、リーサの熱意を嬉しく思っていた。「リーサ、お前には期待している。エデンを、そして民を守るために、力を貸してくれ」「はい! この命に代えても、エデンをお守りします!」 リーサは力強く宣言し、カリナに忠誠を誓った。その瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。 カシュー王は満足げに頷き、玉座から立ち上がった。「うむ。これにて任命式を終了する。皆の者、これからもエデンのために力を尽くしてくれ!」「はっ!」 玉座の間に、騎士達の力強い声が響き渡る。 こうして、エデンに新たな優秀な召喚士が加わった。リーサはカリナの代行として、そして一番弟子として、召喚術の道を歩み始めることとなる。 その後、カシュー王は皆を労い、祝宴が開かれることとなった。宴の席では、騎士達がカリナの武勇伝を語り合い、リーサも熱心に耳を傾けていた。 カリナはルナフレアにジュースのグラスを傾けながら、静かに呟いた。「これ
翌日の正午過ぎ。太陽が真上に昇り、演習場の砂埃を照らす頃、カリナはルナフレアを伴って騎士団演習場の門をくぐった。 門番の兵士達は、昨日カリナが見せた伝説級の精霊との戦いを目の当たりにしているため、最敬礼でカリナを出迎える。その瞳には畏敬の念が宿っていた。 演習場に入ると、円形の闘技場を見下ろす観覧席には、昨日の今日だというのに、またしても主要なメンバーが勢揃いしていた。 中央の貴賓席には、面白そうに身を乗り出すカシューと、その隣で扇子を片手に優雅に微笑む、完璧な美女の振りをしたエクリア。その後ろには、胃薬でも欲しそうな顔をしたアステリオンと、エクリアの代行であるレミリアが控えている。 騎士団席には、近衛騎士団長のクラウス、王国騎士団副団長のライアンをはじめとする騎士達。そして、戦車隊隊長のガレウスまでもが、「また凄いもんが見れるかもしれん」と最前列に陣取っていた。「やれやれ、暇人が多いなあ」 カリナが苦笑すると、隣を歩くルナフレアがくすりと笑った。「それだけカリナ様の力が注目されているということですよ。……では、私はあちらへ」 ルナフレアは演習場の端、関係者用の席へ向かう前に足を止め、カリナに向かって深々と頭を下げた。「カリナ様、あの世間知らずのエルフに、本物の召喚術というものをご教示なさって下さい。御武運を」「ああ、任せておけ。見ていてくれ」 ルナフレアの言葉に軽く手を振って応え、カリナは演習場の中央へと歩みを進める。そこには既に、対戦相手であるエルフの召喚士、リーサが待ち構えていた。 召喚士特有のローブを風になびかせ、手には身の丈ほどの樫の木の杖を握りしめている。その表情は硬いが、瞳には決して折れない強い意志と、カリナに対する侮りにも似た対抗心が燃えていた。「お待ちしておりました。逃げずに来たことだけは褒めて差し上げます」 リーサは杖の先をカリナに向け、挑発的な視線を送る。「陛下やアステリオン様が何を考えているのかは分かりませんが、召喚術とは長い修練と精霊との対話によってのみ成される神聖な儀式。あなたのような子供に務まるような軽いものではありません」 彼女の言葉に、観客席の騎士達がざわつく。「おいおい、死んだわあいつ……」「昨日のあれを見てないからって……」といった同情の声が漏れ聞こえてくるが、リーサの耳には届いて







